そのなかの一作である「ナイトランド」(ウィリアム・ホープ・ホジスン著)は、
二段組、上下各200ページを超す大作であり、
未来の暗黒世界を壮烈なビジョンで描いた小説である。
物語は、妻を亡くして悲嘆に暮れる男が、夜眠りに落ちると
遥か未来世界で目を醒まし、妻の生まれ変わりと言える少女と
遠く離れて交感し、闇の世界に少女を探しに行くというもの。
深く広い闇の世界(ナイトランド)には、人を捕食する怪物や悪霊が跋扈し、
絶滅に瀕した人類は、それらの怪物たちを監視する塔を造り、
各所で籠っている。
主人公は、苦難の末にヒロインを助ける騎士そのまま、
闇に向かい、怪物たちと交戦する。
・・・
「妖精文庫」版の挿絵は、まりの・るうにい。
本文の挿絵は残念ながらモノクロだが、
表紙には、縮尺されてはいるものの、カラーで印刷された絵が載り、
その色合いの美しさを観ることができる。
この長大な作品を読んだのは、16~17年前のこと。
ちょうど、東京や横浜での単身赴任生活に入る頃だった。
横浜(東神奈川)では、老婦が経営する旅館を常宿にしていた。
風呂や洗面やトイレが共同のこの旅館で、
その共同トイレの2階窓から眺める景色が思い出される。
夜の闇のなかに高い建物が浮かび、頭頂部分がサーチライトのように光っている。
まるで、「ナイトランド」に出てくる監視塔のようだ。
僕は用を足すときに目の当たりにするこの景色を観ながら、
「モンストルワカン(怪物警備官)」といつもつぶやいていた。
この塔は、実はスーパーの建物で、当時“SATY”であった。
風呂やトイレに行く際は、眼鏡をせず裸眼であったため、
夜の景色もぼんやりとしかみえず、このような想像に至ったわけである。
ちなみに、「ナイトランド」の原作の挿絵は、以下のようなものであったという。
もし、このような絵で本を読んでいたら、旅館の窓からの景色を観ても、
「ナイトランド」は発想し得なかっただろう。
「ナイトランド」を始めとする「妖精文庫」シリーズは、
まだネットオークションやショッピングサイトが活性化する以前に、
偶然見つけた個人のサイトから相対取引で購入したものだ。
幻想文学というジャンル、特に海外の翻訳ものに焦点を当てて、
収集、読破しようと意気込んでいた時期で、いま思い出すと懐かしい。
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