大学図書館の4階にある美術書の部屋へ、しばしば寄った。
気分転換のためだけでなく、演劇の舞台の発想を湧かせる目的もあった。
絵画、建築、デザイン、写真など、さまざまな本を眺めたが、
重厚な本が多いなかで、何度も手に取る薄いソフトカバーの画集があった。
タイトルは「妖精画廊」。
“挿絵黄金期の絵師たち”と副題があり、編者は、荒俣宏である。
タイトルの「妖精」は、荒俣が企画した、今はなき月刊ペン社の“妖精文庫”の
別冊した発刊されたことに依ることを、後年知った。
ともかく、この本に出てくる挿絵たちは、どれも素晴らしい。
僕は、どれほどイマジネーションを刺激されたことか。
「妖精画廊」目次 |
「The Blue Bird」(F.Cayley Robinson) |
薄い本なのに、美しい絵が豊富に掲載されている。
最初に本を開いたときの驚きは、まだ覚えている。
この本のおかげで、エリナー・ボイル、リチャード・ドイル、ウォルター・クレイン、
エドワード・バーン・ジョーンズ、ウィリアム・ティムリンなどの画家の名を知った。
また、ウィリー・ポガニーは、岩波の絵本「金のニワトリ」の挿絵画家で、
子供のころからあるその本を、改めて見直した。
それに、何度見返しても惹き込まれる絵がある。
羽帽子をかむり、装飾的なドレスに身を包んだ少女が、
ベンチで本を読み、こちらを振り向いたところである。
少女は蠱惑的であでやかな表情を浮かべる。
対照的に、少女の膝に載る犬は無表情でこちらを見る。
この絵が好きなのは、少女がいる場所だ。
森のある公園のなかなのだろうか。
木々はあるが、淡い光の向こうに、うっすらと見える。
この光は、朝もやか、それとも夕暮のエーテルか。
不思議な空間である。
in THE STRAND MAGAZINE |
色合いが素晴らしく、細部も入念に描いている。
じっと見つめると、曲線が動き出して、軽いめまいを覚えるほどだ。
「Tale of Hoffmann」(Malio Laboccetta) |
(同上) |
このパネルに囲まれた舞台は、それだけで異空間となった。
ジョン・オースティンの掲載作は、直線を効果的に用いた背景と
十二等身ほどにデフォルメされた人物が、モダンを感じさせる。
「Don Juan by Lord Byron」(John Austen) |
(同上) |
また、やはり古書店で「妖精画廊 Part2」を見つけ、喜んで購入した。
そして、20年ほど前に、「新編 妖精画廊」を書店で見つけ、
こちらも迷わず購入した。
「妖精画廊」3冊 |
「秘密の山」(K・タウンドロー) |
「自然の殿堂」(J・フュスリ) |
「トロイリスとクリシダ」(エリック・ギル) |
「ガルガンチュワとパンタグルエル」(R・A・ブラント) |
続編もそれぞれ、美しいカラーの図版が多いが、
モノクロの絵に不可思議な魅力を湛えた絵が多い。
「BOOK OF WONDER」(シドニー・H・シーム) |
ハリ―・クラーク |
後年、これらの挿絵本を、自分でも所有することになった。
マリオ・ラボチェッタの実物は、心底素晴らしかった。
「Tale of Hoffmann」(Malio Laboccetta) |
(上掲部分) |
“come not, Lucifer!”(R・A・BRANDT) |
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