書名は、「ねむり穴」。
アメリカの、古くからある村に赴任してきた教師が主人公。
村には、“ねむり穴”という場所があって、その付近では不思議なことが起こる。
夜中に音楽がかすかに聴こえるので行ってみると、
村人たちが月明かりのもと、輪になって踊っている。
楽しそうに、でも、にぎやかな音はない。
また、昼間そのあたりで遊んでいたり、本を読んでいたりすると、
決まってもうろうとしてきて、眠りに引き込まれる。
夕方になって目を覚まし、慌てて逃げ帰る。
それから、村には、馬にまたがった首なしの騎士の幽霊が出て
人々を怖がらせる。
教師は、夜道でその幽霊に遭ってしまい、そのまま行方不明になる。
ところが、しばらくして、別の町に行った村人が、
くだんの教師がなぜか偉くなって、その町に平然と住んでいることを伝える。
・・・
その本は、2年生の教室で繰り返し読んだが、
学年が変わると共に、物語は記憶だけとなり、
その後、30代の半ばまで、その本の筋をおよそ並べると、以上のようになる。
魅力的だったのは、村人たちが月明かりの下で幻のように踊る場面、
それに、いなくなった教師が、全然別のところでひょっこり生きている、
という最後のおちである。
今の趣味に繋がる幻想性を帯びていると思う。
そして、30代の半ば。
レイ・ブラッドベリの「刺青の男」を読み直していたら、未来の禁書の一冊に、
ワシントン・アーヴィング著「眠り洞(うろ)の伝説」、とあった。
いささか興奮した。かの本には原作があったのだ。
レイ・ブラッドベリ「刺青の男」 |
「スリーピー・ホローの伝説」が、まさに該当作だと判明した。
当時、インターネット古書店で、最初に購入した本が、
新潮文庫のその本だった。
アーヴィング著「スケッチ・ブック」 |
ネットオークションで検索をかけたところ、「ねむり穴」の出品があった。
すぐに応札して、安く入手できた。
届いた本は、1964年12月に日本書房から発行された、
アービング原作、大石克己・文、石垣好晴・絵になるものである。
大石克己 翻案「ねむり穴」 |
覚えている表紙は、主人公が本を持って立っていて、
暗い背景のなかで、目を回している様子だったはずだ。
また、一読して驚いたのは、村人たちが月明かりに踊る記述がないこと。
手をつないだ絵まで記憶していたのに、その場面がなく、半信半疑だった。
国会図書館を検索すると、「ねむり穴」は同じ翻案者で
1961年発行となっている。
表紙は、もしかすると版が変わったときに入れ替わったと推測することもできるが、
その際、踊りの場面をわざわざカットすることも考えにくい。
30年近く自分のなかで醸成された、まったくの幻なのだろうか。
ただ、その幻の記述に、その後の趣味が影響を受けているので、
ウロボロスのようにどちらが先か、わからなくなってきている。
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