夕暮の花の園に、女性がもの想いにふける。
まとっている布は薄く、体の線が露わになる。
大きな花の光輪は、彼女を守護するようだ。
油彩でありながら、イラストレーションを思わせる繊細なタッチ。
女性の美と幻想的な景色への憧れと賛美が感じられる。
夢(1912年) |
淡い幻想的な絵を産み出す画家を想像してフォーゲラーを調べてみると、
初期には、木々や小川などの自然に囲まれた景色に
女性がたたずむような絵が多い。
いずれも、彼の妻となるマルタをモデルにしていると云われる。
抒情的で少し物憂げだが、そこにはやはり、神秘的な憧れを感じる。
春(1897年) |
あこがれ(1899年頃) |
また、銅版画は、背景となる豊かな自然を細かく描写し、
そのなかに女性を配して、ひとつの物語を思い浮かべられるような
そんな絵が多い。
春(1896年) |
夏の夕べ(1902年) |
死がバラを摘む(1904年) |
彼は、自らの夢と物語を現実化しようとした。
ヴォルプスヴェーデという小さな村に移住し、
農家を改造してバルケンホフと称する住居をつくった。
白樺をはじめ、自分好みの樹木を植えて庭園を設け、
7年来思い続けた少女を妻として、そこに迎えた。
まさに、人為的につくられた楽園だ。
バルゲンホフ(1910年) |
ただ、フォーゲラーは、自分の創った世界に執着し、自分のことばかりを考え、
周囲には自分の世界における役割を求めたと云う。
そんな利己的な理想郷は、長続きしなかった。
また、彼は豊かな才能から、挿絵やデザインの仕事に活路を見出すが、
そうして稼いだ金さえ、慈善や住居の増築に入れ込んだ。
レダ(1912年頃) |
フォーゲラーは、妻との距離を縮めようと努力したようだが、
おそらく彼の視点は一度も妻や周囲を主役に据えることなく、
一方的な思いで終わったように思う。
結局、彼は50歳を前に家族と別居し、ロシア人の女性と再婚して
ソ連に拠点を移す。そこでも紆余曲折があり、70歳を前に彼は窮乏死する。
夢の具現であるバルケンホフと、そこでの家族との生活は、
まぼろしのように消え去ったのだ。
フォーゲラーのバルケンホフ前での写真を見ると、
結婚して間もない頃であるのに幸福感が感じられず、
強く意思を示す口元と、神経質そうな表情が見て取れる。
結婚前のマルタの初々しい写真と併せて見ると、
その後の人生が思われて痛々しい。
フォーゲラー(1902年頃) |
マルタ |
ただ、この絵を描いたとき既に、彼と妻の距離は
修復できないほど隔たっていた。
彼は若くして、自分の夢を形にしたにも関わらず、
それが自分の思い描く夢にはなり得なかったことに苦悩したのだ。
その現実から逃れ、自分の憧れをイメージするために、
「夢」と題する絵を描いたのだと思う。
0 件のコメント:
コメントを投稿