2015年9月23日水曜日

画家自らの反映 東山魁夷 「コンコルド広場の椅子」

東山魁夷が亡くなって、作品や評伝を新聞やテレビで見るうちに
彼の絵がいいと思うようになってきた。
その頃に個展も観に行き、実物の青や緑の深さを体感した。

その後、東京出張の合間に書店へ寄った折に
「コンコルド広場の椅子」という彼の詩画集を見つけた。
淡く静かだが、豊かな色彩の絵と、余白をたっぷりとった贅沢な造本に惹かれた。



パリのコンコルド広場に置かれた椅子たち。
画家は、かれらの声を聴くことによって、詩を紡ぐ。
季節の移り変わり。まわりの人間たち。

若い娘が腰かけるのが最も嬉しいのだという。
椅子は、画家と同じ性である。
否、画家が自らを映して、椅子に語らせているのだろう。



広場から動けない椅子たち。ただ、かれらも夢をみる。
夢のなかでは、かれらは自由に動けるし、空も飛べる。
エッフェル塔に向かい、ルーブルからノートルダム聖堂を超える。
サクレ・クールから凱旋門を経て、シャンゼリゼ通りを一直線に
広場へ戻ってくる。


夢の風景は、もの売りの屋台店にぶらさがる、
絵葉書だけのパリだった。
落ち葉が舞い落ちて、椅子の上に葉が載った。
もうすぐ冬である。

この詩画集の最後の一葉は、
雨のなか、ホテル・クリヨンと街灯を背景にして、たたずむ椅子の絵。
人のいない広場で、ひとり建物と対峙しているように見える。






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