2015年10月4日日曜日

壜のある景色(金山康喜)

新聞で、心惹かれる絵を見た。

青い床の不思議な空間。
手前の茶色いテーブルには壜が3本。
中景には、紫の長テーブルの周りに男が4人、
話すでもなく、黙って寄り合っている。
奥には、ここが2階以上を想わせるテラスが、大きな開き戸から見える。

この空間を不思議なものにしているのは、
天井からいくつも吊り下がっている薄色の丸いライトと、
黒猫のように奥から手前に並んでいる椅子の数々だ。

静かだが、いわくありげな画面である。

「食前の祈り」(1950年)
画家は、金山康喜。

裕福な家庭に育ち、東大経済学部を卒業後、
大学院時代にフランス語を学び、そのままフランス渡航。
26歳で仏語の経済書を翻訳し、絵画も手掛ける。
結核を発症して肺の一部を切除、サナトリウムで療養。
画家としても将来を嘱望され、32歳で帰国。
日本で個展を開催するが、33歳で夭折する。

画集が欲しくて、15年前の展覧会の図録を古書店で買い求めた。

テーブルに壜が置かれた絵が多い。透明感のある色彩が美しい。
日常を、モダンで静謐なひとつの景色にしている。

彼の年譜の写真は、1歳の頃のあどけない笑みのほか、どれにも笑顔はない。
自身の怜悧な天才と、運命を予感しているかのようだ。

「コーヒーミルのある静物」 (1957年)




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