2015年10月18日日曜日

イマジネーションの宝庫 「妖精画廊」

大学時代、疲れた体と頭を癒すため、
大学図書館の4階にある美術書の部屋へ、しばしば寄った。
気分転換のためだけでなく、演劇の舞台の発想を湧かせる目的もあった。

絵画、建築、デザイン、写真など、さまざまな本を眺めたが、
重厚な本が多いなかで、何度も手に取る薄いソフトカバーの画集があった。

タイトルは「妖精画廊」。
“挿絵黄金期の絵師たち”と副題があり、編者は、荒俣宏である。
タイトルの「妖精」は、荒俣が企画した、今はなき月刊ペン社の“妖精文庫”の
別冊した発刊されたことに依ることを、後年知った。

ともかく、この本に出てくる挿絵たちは、どれも素晴らしい。
僕は、どれほどイマジネーションを刺激されたことか。

「妖精画廊」目次

「The Blue Bird」(F.Cayley Robinson)

薄い本なのに、美しい絵が豊富に掲載されている。
最初に本を開いたときの驚きは、まだ覚えている。

この本のおかげで、エリナー・ボイル、リチャード・ドイル、ウォルター・クレイン、
エドワード・バーン・ジョーンズ、ウィリアム・ティムリンなどの画家の名を知った。
また、ウィリー・ポガニーは、岩波の絵本「金のニワトリ」の挿絵画家で、
子供のころからあるその本を、改めて見直した。

それに、何度見返しても惹き込まれる絵がある。
羽帽子をかむり、装飾的なドレスに身を包んだ少女が、
ベンチで本を読み、こちらを振り向いたところである。
少女は蠱惑的であでやかな表情を浮かべる。
対照的に、少女の膝に載る犬は無表情でこちらを見る。

この絵が好きなのは、少女がいる場所だ。
森のある公園のなかなのだろうか。
木々はあるが、淡い光の向こうに、うっすらと見える。
この光は、朝もやか、それとも夕暮のエーテルか。
不思議な空間である。

in THE STRAND MAGAZINE
マリオ・ラボチェッタの絵は、荒俣宏と同様に、この本で最も好きなもののひとつだ。
色合いが素晴らしく、細部も入念に描いている。
じっと見つめると、曲線が動き出して、軽いめまいを覚えるほどだ。

「Tale of Hoffmann」(Malio Laboccetta)

(同上)
上の左ページの絵にあるランプは、演劇部で舞台に出すパネルの図柄に用いた。
このパネルに囲まれた舞台は、それだけで異空間となった。


モノクロの絵も、素敵なものがある。
ジョン・オースティンの掲載作は、直線を効果的に用いた背景と
十二等身ほどにデフォルメされた人物が、モダンを感じさせる。

「Don Juan by Lord Byron」(John Austen)

(同上)
その後、社会人になって、念願のこの本を古書店で購入した。
また、やはり古書店で「妖精画廊 Part2」を見つけ、喜んで購入した。
そして、20年ほど前に、「新編 妖精画廊」を書店で見つけ、
こちらも迷わず購入した。

「妖精画廊」3冊
以下は、「妖精画廊 Part2」で印象的なものから。

「秘密の山」(K・タウンドロー)

「自然の殿堂」(J・フュスリ)

「トロイリスとクリシダ」(エリック・ギル)

「ガルガンチュワとパンタグルエル」(R・A・ブラント)
そして、「新編 妖精画廊」から以下を。
続編もそれぞれ、美しいカラーの図版が多いが、
モノクロの絵に不可思議な魅力を湛えた絵が多い。

「BOOK OF WONDER」(シドニー・H・シーム)

ハリ―・クラーク

後年、これらの挿絵本を、自分でも所有することになった。
マリオ・ラボチェッタの実物は、心底素晴らしかった。

「Tale of Hoffmann」(Malio Laboccetta)

(上掲部分)

“come not, Lucifer!”(R・A・BRANDT)

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