エッシャーは、20代から30代にかけて、主にリトグラフや木版で、風景や挿絵を描いた。風景画は実在のモデルがあると思われるが、その絵を見ると、幾何学的な面や奇妙な曲線で形作られていて、或る様式美が感じられる。そして、その絵の背景には、細かな粒や線が質量の存在を感じさせるように描き込まれている。
「THE MAGIC MIRROR」のなかで僕が特に惹かれたのは、邸宅のような建築物が、街灯やフットライトに照らされて、夜の闇に浮かび上がる絵だ。
Nocturnal Rome, Basilica of Constantine |
僕の生家は、ケヤキやマツの木立に囲まれた大きな団地だ。夜になると街灯がともり、芝生にはさまれた4階建ての集合住宅が白く浮かび上がる。僕は4歳までこの団地に住んだ。幼い僕が夜のベランダから見た景色は、きっと似たものであったに違いない。
この絵は、1934年に描かれた連作「ローマの夜」のひとつだと、後年になってわかった。夜の闇を満たすエーテルのイメージは、その後も僕の心から離れない。
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