2015年1月12日月曜日

おのれをともしびとし 「神無き月十番目の夜」

今まで読んだ小説のなかで、
もっとも力強く、もっとも魅力的で、もっとも怖ろしい。その3拍子を併せ持つ。
それが、飯島和一著、「神無き月十番目の夜」だ。

江戸の初期、ひとつの村の民が皆殺しとなる。
序章から、起きてしまった惨事が語られる。
そして、3章からなる年代順に、その悪夢の過程が明らかになるのだ。

結末に、怖ろしい状況が待っているのに、そこへ突き進まざるを得ないスリル。
たたみかけるような文体。
ただ、それだけが、この小説の読みどころではない。

沈着冷静、情もあり、かつ、いざというとき恐ろしい力を発する、嘉衛門。
この魅力的な人物が、序章にしか出てこないところに、心底うならされる。
それに、石橋藤九郎。3つの章にわたり、成長し、統率し、時代に抗えず、いなくなる。
この藤九郎が真に伝えたかったのは、ほかの誰にも支配されない自分の領域を守れ、
ということではなかったか。

己を灯とし
己を拠とせよ
他のものを拠とするな

「おのれをともしびとし、おのれをよりどころとせよ。」

藤九郎が佐市に与えたその言葉どおり、
佐市は2度も、自分を枷からはずし、新たな天地へ旅立つ。
それがこの小説の真骨頂であり、感動的だ。



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