ベルギーの画家5人の作品を集めた展覧会へ行った。
アンソール、マグリット、デルヴォーが目当てだったが、
そこで、別の画家の絵に惹きつけられた。
男が独り、薄暮のなか、シルクハットにオーバーを着て
逆光でシルエットになり、埠頭に立っている。
光源は左手の水辺の街灯で、絵の右半分はコンクリートの橋桁が屹立している。
あたりは静寂。灯の光が濡れた路面を流れて、絵を縦に横切る。
かすかな、にじむような白い光の筋は、
「夜」と名付けられたこの絵の最大の魅力となっている。
男は酔っているのだろうか。
右手を挙げ、左手は胸に置いて、見えぬものに挨拶しているようにみえる。
だが、この絵の主役は男ではない。
あたりを包む静寂であり、孤独であり、暗がりに流れる光だ。
「夜」 |
画家の名は、レオン・スピリアールト。
ほかの展示物にも、薄闇の海辺に燐光のように街灯や波が光り、
静けさと孤独さを感じる絵がいくつかあった。
暗く青い海の色と光の描き方が魅力的だ。
謎めいた絵、「水浴から戻る人」に、じっと見入った。
ただ、彼の絵はモノクロームに近いものだけではない。
彩色された作品も美しい。
パステルやグワッシュを用いた、鮮やかで装飾的な絵があった。
これらのどちらも好きな絵だ。以来、この画家に気をつけていた。
2年後、今度はスピリアールトの個展が開催された。
知名度が低いと思われるこの画家を、よくぞ取り上げ開催してくれたものだ。
「めまい」 |
悪夢の一場面のような、恐ろしさを感じる。離れたところからでもよく目立つ。
また、スピリアールトの灯ともいうべき、魅力的な光を描いたものもあった。
「堤防、光の反映」は、墨のぼかしをうまく使い、色鉛筆で淡く彩色している。
雨ににじむ灯火の長い筋。その灯火ひとつひとつが燐光を放ち、川の奥へ連なる。
人の気配はなく寂しい景色だが、郷愁にも似た懐かしさを、この絵に感じる。
「堤防、光の反映」 |
スピリアールトの彩色画も好きだ。
「美しさ-日の終わり」は、鮮やかなパステルを使い、
白い夕日と、降り注ぐ黄金の光を見事に描き
タイトルにも絵のタッチにも、詩情が感じられる。
「美しさ-日の終わり」 |
また、後年は、何枚か樹木の絵を描いている。
それらは、樹皮や生い茂る針葉を緻密な線で表わし、
装飾的で、なにか別のものにも見える。
彼が20代のときの薄暮と灯火のテーマとはまったく違うが、
文学書に挿絵を描いたデザイン性は、一貫して感じられる画家だ。
「防火林」 |
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