2016年1月23日土曜日

溶け出す光に魅入られた画家 高島野十郎

最初に目にした絵は、焔をあげる短いろうそくだった。
それらが何枚もあるという。

それぞれのろうそくは、闇のなかや、
焔によってほのかに明るくなった空間のなかで、
いずれも孤独さをたたえながら焔を揺らす。

ろうそくの胴体よりも、焔の方がずっと長い。
いずれも、芯の根元はかすかに青く、
芯のまわりは、卵型にやや暗い。
そして、その中心部から上へ焔が伸びて、
鮮やかな黄色で燃え上がり、先は赤く染まっている。
また、焔のすぐ外側には、蝋が気化したような
赤い霧状のものが見える。

焔はチチチと高温で燃えているが、景色は暖かではなく、
その描写は寂寥を醸している。





これらのろうそくの絵に惹かれ、高島野十郎の画集と評伝を買った。
2008年のことだ。

本屋で画集をめくり始めて目に入ったのは、冒頭にある月夜の絵たちだ。

夜空に、煌々と満月が照っている。
空は、月の光が溶け出て、漆黒ではなく、
群青だったり、薄墨だったり、深緑だったりする。

丁寧に塗られた夜空を背景に、満月がぽんと浮かぶ絵。
月は輪郭線があるにせよ、ろうそくの焔と同様に、
そのまわりは白く霧状に描かれている。




高島は、なぜこのような絵を描いたのか。

ろうそくの焔といい、夜空の月といい、
暗さのなかに浮かび上がる光がモチーフである。
彼は、身近な対象のなかから、そのような光を放つ物体を
描きたかったのではないか。

もうひとつ、彼は太陽も描いている。
照度の高さ故に、その輪郭線はほどんどなく、
黄色い放射状のグラデーションである。
画集のどの絵も、林や草山の向こうに照り輝く光が見られ、
まるで隕石が爆発した直後のようだ。
それらの絵は孤高ながら、ろうそくや月夜とは異なる、
激しさや力強さを感じる。


ただ、3つのテーマの共通点は、光を放つ物体を対象とし、
それらの光があたりに溶け出しているさまを描いていることにある。

高島は、光が放たれて辺りに溶け出す光景に魅入られたからこそ、
幾枚も同じテーマで描いたのだと思う。

・・・

彼は、風景画や静物画を多く描いた。その描写は精緻で丁寧だ。
東京大学で水産学を学んだという、その観察眼が
そのようなタッチを産んだという。
画集を眺めていても、魅力的な絵が多い。

「秋たけなは」
「早春」
高島が文章を徒然に書いたノートが残されている。
そのなかの歌を引用する。

花は散り世はこともなくひたすらに
たゞあかあかと陽は照りてあり

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