2016年2月21日日曜日

所有することの歓び 齋藤カオル 「もの想い」

自分の書斎に、南向きに机を置いている。
机に向かって左側は本棚、右側は白い壁である。
その壁に、メゾチントの版画を掛けている。

漆黒の背景のなか、若い女性が上半身を浮かび上がらせている。
彼女は、右に顔を向けていて、目を閉じ、うっとりとしている。
右側からは明るい光があたり、カーブを描いた広い額や、
筋が通りつんとした鼻を白く照らし、背景とのコントラストが鮮やかである。

髪は闇に溶け込んでいる。髪から半分見える耳には真珠のピアスが光る。
丸い頬に沿って薄い影ができていて、その影が、たっぷりした唇まで落ちている。
唇もつんとしていて、つややかに光っている。

両手は組まれ、それを右肩に置いて、丸い顎を両手の上に載せている。
顎から続く、なだらかな首の線も美しい。鎖骨のくぼみがほのかに官能的だ。

Vネックに半袖の黒い服。光があたってできる右袖のひだが、
柔らかで乾いた服地の感触を思わせる。
細い金属のブレスレットが左腕に光り、アクセントになっている。

絵の印象は、シンプルで、清楚で、モダンだ。



この絵は、齋藤カオル作、 「もの想い」。

生を受けて半世紀を経た記念に、絵がほしいと思い、偶然見つけた。
ひと目見て、とても気に入った。
値段も手ごろで、入手できたのは本当に幸運だったと思う。

机に向かっていて、ふと右を向けば、正面にその絵を見ることができる。
所有する歓びを、肌で感じる。



この絵の右側には、二見彰一のリトグラフ「青い夜」、
左側には織田義郎の彩色エッチングによる風景画が掛けてある。
いずれも大好きな絵だが、「もの想い」はやはり真ん中である。




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