そんな暑さに涼を求めて、日本では江戸時代からこのかた、
真夏に怪談話を好んできた。
幽霊譚の本場、イギリスでは、怪談の季節は冬だ。
相手への嫌がらせではなく、クリスマスプレゼントに怪談集を送る国柄だ。
妖精や心暖まる怪談(ジェントルゴーストストーリー)を含めて
あちらでは季節を問わず、怪奇幻想の物語が生活に根付いている。
ただ今回、暑い夏に敢えて取り上げたいのは、日本や英国の怪談ではなく、
米国人作家、ヘンリー・セントクレア・ホワイトヘッドの著作選集である
「ジャンビー」(国書刊行会 1977年刊)だ。
「ジャンビー」(国書刊行会) |
H・S・ホワイトヘッド |
1920年代後半から30年代初頭にかけて書かれたこれらの物語は、
現代的な怪談とは一線を画す。
すなわち、魔法医師(オビ・ドクター)の呪術や、
狼憑き(リカンスロープ)、犬憑き(カニカンスロープ)などが登場する、
まがまがしく土着的な怪異譚である。
現地を訪れている白人のケインヴィンを一連の主役にすえ、
淡々と物語を語らせる。
それでも、奇怪な事象と、それらの原因となる得たいの知れないものは、
昼夜を問わないじっとりとした暑さを、物語の舞台に感じるにも関わらず、
読む者に、背中を黒く冷たいものが覆うような恐怖を与える。
たとえば、「カシアス」は、野鼠のような邪悪なものが、特定の人物を襲う。
それは、その人物から切り取られた腫瘍であり、さらに言えば、
双生児の小さな片割れ、つまりその人物の兄弟なのである。
不当に扱われたことによる憎悪を動機として、
野鼠のようなものは飛び跳ねながら、
自分を切り離した男の身体に、小さく鋭い歯を剥く・・。
アントニー・バウチャー作の「噛む」に登場するカーカーよりはずっと弱く、
最期は飼い猫に殺られてしまう結末だが、
もの悲しい不気味さを感じる傑作である。
なお、表題のジャンビーとは、オビの呪いにより喚び出された邪霊のことだ。
仏領の島々では、ゾンビとも呼ばれる。
この本は、大ファンであるところの荒俣宏が訳・監修を行っている。
ドラキュラ叢書と銘打たれた10巻本のなかの1冊だが、
山田維史氏の挿絵とともに、一読忘れえぬ印象を受ける本だ。
「樹の人」挿絵(山田維史) |
「カシアス」挿絵(山田維史) |
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