2015年8月15日土曜日

カリブの闇の呪術 「ジャンビー」(H・S・ホワイトヘッド)

暑い夏。体温を上回る熱気。
そんな暑さに涼を求めて、日本では江戸時代からこのかた、
真夏に怪談話を好んできた。

幽霊譚の本場、イギリスでは、怪談の季節は冬だ。
相手への嫌がらせではなく、クリスマスプレゼントに怪談集を送る国柄だ。
妖精や心暖まる怪談(ジェントルゴーストストーリー)を含めて
あちらでは季節を問わず、怪奇幻想の物語が生活に根付いている。

ただ今回、暑い夏に敢えて取り上げたいのは、日本や英国の怪談ではなく、
米国人作家、ヘンリー・セントクレア・ホワイトヘッドの著作選集である
「ジャンビー」(国書刊行会 1977年刊)だ。

「ジャンビー」(国書刊行会)
H・S・ホワイトヘッド
八つの短編の舞台となるのは、カリブ海に浮かぶ西インド諸島。
1920年代後半から30年代初頭にかけて書かれたこれらの物語は、
現代的な怪談とは一線を画す。

すなわち、魔法医師(オビ・ドクター)の呪術や、
狼憑き(リカンスロープ)、犬憑き(カニカンスロープ)などが登場する、
まがまがしく土着的な怪異譚である。

現地を訪れている白人のケインヴィンを一連の主役にすえ、
淡々と物語を語らせる。
それでも、奇怪な事象と、それらの原因となる得たいの知れないものは、
昼夜を問わないじっとりとした暑さを、物語の舞台に感じるにも関わらず、
読む者に、背中を黒く冷たいものが覆うような恐怖を与える。

たとえば、「カシアス」は、野鼠のような邪悪なものが、特定の人物を襲う。
それは、その人物から切り取られた腫瘍であり、さらに言えば、
双生児の小さな片割れ、つまりその人物の兄弟なのである。

不当に扱われたことによる憎悪を動機として、
野鼠のようなものは飛び跳ねながら、
自分を切り離した男の身体に、小さく鋭い歯を剥く・・。

アントニー・バウチャー作の「噛む」に登場するカーカーよりはずっと弱く、
最期は飼い猫に殺られてしまう結末だが、
もの悲しい不気味さを感じる傑作である。

なお、表題のジャンビーとは、オビの呪いにより喚び出された邪霊のことだ。
仏領の島々では、ゾンビとも呼ばれる。

この本は、大ファンであるところの荒俣宏が訳・監修を行っている。
ドラキュラ叢書と銘打たれた10巻本のなかの1冊だが、
山田維史氏の挿絵とともに、一読忘れえぬ印象を受ける本だ。

「樹の人」挿絵(山田維史)

「カシアス」挿絵(山田維史)


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