2015年8月23日日曜日

遊びのなかの怪異 「スミ―」(A・M・バレイジ)

若者たちのクリスマスイヴ。食べ、騒ぎ、そろそろゲームの時間だ。
“かくれんぼ遊び”が提案された。しかし、年長のジャクソンは参加しない。
いつもと違う彼の言動に、みながその訳を聞きたがった。

「昔、ある屋敷でかくれんぼ遊びをしていて、
ひとりの女の子が階段から真っ逆さまに落ちて死んでしまった。」
「僕は、それとは別のことが起こったときに、その屋敷にいたんだ。
もっと悪いことがね。」

「それより悪いことなんて、考えられない。」と、誰かが言った。
「そう。そう思う。ただ、僕にはそう思えるということだ。」

「君たちは、スミ―というゲームをしたことがあるかい?」ジャクソンは言う。
「私が鬼、“It's me.”それを口語的に[S-mee]と云ったのが由来だ。」
「カードを配り、鬼、つまりスミ―を決める。スミ―以外の人は、誰がスミ―かわからない。
部屋を暗くして、スミ―は皆に気づかれずに部屋を出て行き、どこかに隠れる。
そのあと皆はスミ―を探しに行くんだ。」
「誰かに会ったら、『スミ―?』と尋ねる。スミ―でなければ『スミ―』と答える。
本当のスミ―は、尋ねられたときに答えてはいけない。
尋ねたほうは答えがなければ、黙って相手の片側に立つ。
そして、プレイヤー全員が一本の鎖のようにつながるまで続ける。
最後までスミ―を見つけられなかった者は、罰金だ。」

ジャクソンは以前、そのゲームを広い屋敷で行ったことがある。
それより昔、女の子の転落事故があった屋敷だ。

さて、ジャクソンが参加したスミ―。
ホストがビリになったとき、彼はマッチを擦って、階段で列になっている人数を数えた。
十三人いる。・・みなで十二人のはずなのに。

マッチは二回消え、三度目。人数は十二人だった。
ただ、自分たちの間に人がいた気がしたと、ある二人が言いだした。
本編の語り手、ジャクソンはそのとき、
「空中を何か不快なものが浮遊する感じがした」。

次に、ジャクソンがスミ―になったとき、
ホストの息子が、ジャクソンのいる反対側で、別のなにかを見つけていた。
目をつけていたタンスの戸を開けたら、誰がいたのだ。
彼はスミ―を見つけたと思った。手も触れた。
しかし、嫌な悪寒が走り、懐中電灯をつけると、誰もいなかったのだ。
彼は、「失神するかと思った」。

再び、ゲームが始まった。
ジャクソンは、西側の二階のカーテンの影に誰かが座っているのを見つける。
手を伸ばすと、女性のむき出しの肱に触れた。
一番乗りだ。彼は名を尋ねる。「ブレンダ・フォード」。

彼はその名を知らない。だからこそ、わかった。
このパーティーで初めて会った、背の高い、色の白い黒髪の少女。
きれいで、お高くとまっている。彼が話しかけても、それ以上の答えはない。
スミ―は沈黙のゲームだ。

それから、ゴーマン夫人がやってきた。彼女もスミ―の女ものの服地にさわり
快活に囁きかける。が、応答がないため、仲の良いジャクソンとお喋りを交わす。

しばらくして、ホストの息子が二人を探しに来た。
「僕がスミ―だった。君たち二人が罰金だ。みな長い時間待ったんだぞ。」
「ここにスミ―がいるよ。」と、ジャクソン。
だが、カーテンを開けると、だれもいない。
息子にとっては、不思議な体験は今日2度目だ。彼は奇妙な笑い声をあげる。

ジャクソンは、黒髪の少女に、スミ―のふりをして逃げたんだろう、と詰問する。
少女は否定した。
ホストの息子は、ジャクソンとゴーマン夫人がカーテンの影でいちゃついていた、
と言いふらす。ホストは、ジャクソンと二人になり、彼に非常識だと諭す。

「誰か他の人がいたんです。」ジャクソンは強く言った。
「誰かがスミ―のふりをしたんです。僕はそれが黒髪のフォード嬢だと信じています。」

ホストは彼を見つめ、ほとんどグラスを落としそうになる。
「何嬢だって?」
「ブレンダ・フォード。それが彼女が僕に言った名前です。」
ホストが言う。
「いいかい。僕は冗談は嫌いじゃない。ただ、やり過ぎてはいけない。
ブレンダ・フォードというのは、十年前にかくれんぼしていたときに
首の骨を折って死んだ女の子の名前なんだよ。」

*****

以上は、A・M・バレイジ作「スミ―」のあらすじだ。
文庫本で18ページの短編である。

怪異を語る今と、怪異の発生時と、その因となる事故が起こった時と、
3つの時制が語られる。
それに、スミ―の遊び方や、語り手が黒髪の少女をスミ―と思いこむ理由など、
短い内容のなかに、説明的な部分が多い。ある程度、結末も予想できる。

それでも、この短編が好きなのは、3つの時を通じた因果話になっているところだ。
古い屋敷のなかでかくれんぼ遊びをすると、決まって事故か怪異が起こる・・。
日本の「累」ほどの強い怨念ではないが、事故で死んだ女の子が
成仏できずに古い屋敷をさまよっている様子が思い浮かぶ。

単純で楽しいはずの遊びのなかに、もの哀しくもぞっとする感覚を取り入れた、
秀作であると思う。

「スミ―」が掲載された本(1991年刊)







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